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日英関係の未来―FT「冒険の精神で日経に加わる」から考える [日本の未来、経済、社会、法律]

FT、冒険の精神で日経に加わる」(読売2015年7月25日付け)  日経新聞は英フィナンシャルタイムズ(FT)を1600億円で買収しました。ドイツ・シュプリンガーに競り勝ったものです。これに対するFTの2015年7月25日の社説が「新たな親会社が我々の独立性を公言したことを歓迎する」「冒険と相互信頼の精神で日経ファミリーに加わり、輝かしき歴史に次の一章を書き加えることを楽しみにしている」と結んだとあります。

 この記事で連想したことは往年の日英同盟でした。アジアに植民地帝国を築きつつあった大英帝国は南進を続けるロシアを牽制するためにアジアの日本と相互防衛義務を含む日英同盟を締結することとしました。日本の軍隊が「北京の55日」で有名となった北清事変で略奪をしない規律ある軍隊であることを示したことに対する信頼が基礎にありました。大英帝国は新興日本をパートナーに値すると踏んだのです。

    FTは日経に買収されるにあたってこのような日英間の歴史に思いを致したでしょうか。英国に進出している日系企業や同国で学ぶ日本人研究者・学生の価値観・行動様式などについてとともに日英同盟にも、そしてあの大東亜戦争時のことについても、総じてさまざまな過去と現在の日本関係の事柄について、FT社および親会社内で、そしてイギリス産業界と政界においても白熱した議論が行われたに違い有りません。

     社説は「相互信頼の精神で日経ファミリーに加わり・・・次の一章を書き加えることを楽しみにしている」と言っています。そうであるとするとパートナーとして認識するということでしょうから、この買収劇は単なる二企業間のM&Aであることを超えて、日本と英国、そして英連邦諸国との間の「知識・情報の共有に係る世界戦略」の一環としての意味を持つものであるように思えます。

 今英国はEUへの加盟を続けるか離脱するかの大きな国運を書けた決断の時を迎えています。欧州大陸の盟主フランスは、アメリカとともに、二度までに亘って世界大戦を引き起こしたドイツを欧州に繋ぎ止めるために1952年に石炭鉄鋼共同体を設立し、さらに欧州経済共同体(EEC)を設立しました(1958年)。EECは仏独和解の象徴でした。しかしそれから55年の時を経て、大陸欧州の盟主はドイツであることが明白となっています。ギリシャの債務危機への対応を巡って主導権を握ったのはメルケル首相であり、オランド大統領ではありませんでした。このギリシャへの対応をめぐってEUでは今横暴なドイツに対する憤りが溢れています。このような大陸欧州の情勢の変化の中で、1983年にECEECの発展形態)に加盟したイギリスはEUECの発展形態)にとどまりドイツの風下に立つか、EUから離脱して独自の道を歩むか、この場合は更にアメリカ、日本と結んで新たな連合軸を作るかを判断する重要な岐路に立っているのです。

 他方、日米同盟は現在安倍首相の連邦議会演説以降盤石の体制となっており、未来の関係を考えるには、あの太平洋戦争で戦わなければならない必然性がどれだけあったのかの検証をする時に至っているように思えます。アメリカには対独戦争に参戦するために日米戦争を惹起した側面があったのではないか、ハワイを併合しフィリッピンを植民地化したアメリカは中国利権で日本と平和裏に妥協する道があったのではないか、などといった歴史検証ポイントが浮かび上がっているのです。

 ところで世界は今、(1)クリミア併合で世界から総スカンのロシアと南支那海の岩礁埋め立てでフィリッピン、ベトナム、マレーシアから総スカンをくらい、東支那海への野望で日本から対抗を受けている中国との連携ブロック(しかし「一帯一路政策」でロシアの中央アジアの勢力圏を浸潤する形で欧州と結ぼうとする中国とロシアの間には疎外感を深める両国の一時的利害関係からする連携はあっても、本質において対立するものであることは明白です。)、(2)ドイツを盟主とする大陸部欧州(EU)、(3)日米同盟、米英同盟、(4)ASEAN共同体、(5) 果てしない内乱状態を続ける中東地域、といったいくつかの利害関係が錯綜し、先の秩序の見えない「合従連衡の時代」にあります。

 以上の諸点から思慮し、「大英帝国」の進む道に想いをいたしますと、それは上記(2)(3)の 組み換えによる「21世紀の米英日連合」であるように思えます。21世紀において、日本は中国と対峙しなければなりませんし、ロシアの動向も気になります。イギリスは英連邦諸国としてのまとまりを維持しつつ、EUの 盟主ドイツとの関係を、NATOとの関係を含めて調整しなければなりません。アメリカには、一国平和主義に転換することの許されない、PAX AMERICANAを維持しなければならない世界史的使命が依然としてあります。

     これらの脈絡の中から出てくる最善の解決策は「21世紀の日米英・英連邦連合」ではないでしょうか。アングロサクソン諸国との誼(よしみ friendship)を通じることは明治憲法下においては皇室の基本姿勢でしたし、帝国海軍も英国式でした。日本国民の間にも大陸に面する島国で海洋国家である英国に対する親近感 も依然として少なからずあります。 

   日経によるFT買収劇をみていて、これにはやはり、単なる二企業間のM&Aであることを超えて、日経はそこまで考えてはいないと言うでしょうが、日本と英国、そして英連邦諸国、さらにはアメリカとの間の「情報共有世界戦略」の一環としての意味があるあるように思えます。武士道精神と騎士道精神の出会うところ、多くの冒険が行われ、必ずや「輝かしき歴史」の一章が書き加えられるに違いありません。FT発のユニークな日経記事が数多く掲載される日を楽しみに待つことと致しましょう。

 追記です。

 2017年10月2日産経新聞・岡部昇ロンドン支局長「日英インテリジェンス同盟を」は、訪日したメイ英首相が就任後初のアジア訪問に日本を選んだのは、十六万人の雇用を生み出す一千社の日本企業がEU離脱後の英国に留まることの死活的重要性ゆえに日本が重要と戦略的に判断したからだ、それに加えて、そのような経済面のみならず安全保障の面からの判断もあったと述べています。

安全保障における焦眉の点は中国との関連です。2017年7月に中国海軍は艦隊をバルト海に送り、ロシア領カリーニングラード沖でロシア海軍との合同軍事演習を行い、ロシアの脅威に怯えるバルト海沿岸諸国、ひいてはNATO加盟諸国に不安を与えました(同上岡部記事)。また、同日産経新聞は別の紙面で「国慶節に反旗 黒衣でデモ 香港民主派ら 司法独立に危機感」という記事も載せ、デモ参加者は国慶節(建国記念日)を祝う赤い中国国旗に対抗する狙いと報じています。

こうした記事からは、英国が喉元のバルト海での中国海軍艦船の軍事演習、また旧租借地・香港での一国二制度のなし崩し的解体などから中国からの「側圧」に直面しており、安全保障面で日本との連携を模索しているのではないかと推測されます。

英国の以上のような最新情勢の下で日英両国間の「情報共有世界戦略」は、一つの到達点に向かって具体的な歩みを始めたように思えます。その行き着く先は新「日英同盟」であり、それは「日米同盟」と連結されて(1)新「日米英・英連邦同盟」に成長するかも知れません。その時対峙するのは(2)「中・露とその同盟国群」であり、これらに(3)「独仏・大陸欧州同盟(EU)」が拮抗するのではないでしょうか。この構図は第一次世界大戦後の戦間期の世界情勢を思わせる合従連衡の構図です。アジア、中東、アフリカ、中南米の各諸国は以上の3極のどれかと密接に関係するか、局外中立を志向することに なりましょう。第二次世界大戦後の東西冷戦 の時代がソ連の崩壊で終わり、続くアメリカ一強の時代も揺らぎ、今や世界は混迷の時代に再び入っています。それは核兵器の拡散とテロリズムの時代であり、人類の未だ経験したことのない新たな時代です。

 

 



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